第1章 毎日
「よろしくおねがいします」
「いや~初めまして、マリエちゃん今日は気楽にいこう」
へらへらと笑うメガネの男性が女性向けファッション誌の取材に来た人だ。見た目がこの業界に縁のなさそうな雰囲気だが、毎回面白く魅力的に記事をまとめてくれるいい記者なのだそう。
「それと、今日はもう一人女の子呼んでるから、対談してもらうね」
「え、はい。わかりました」
たまーにこうして連絡なしにくる。いや、アイが必要なさそうと勝手に判断し、言わずにこんなことになる。マリエがちらりとアイを見ると、素知らぬ顔をしてへらりと立っていた。
「あの、どなたでしたっけ」
「聞いてなかった?」
嫌な顔せず教えてくれた。教えてくれたのだが、次はマネージャーをにらむことになった。
「なぁに、今日一緒に話す子がどうしてもマリエちゃんと一緒にぜひって言うもんだから、お願いしたんだよね!
僕も君に会ってみたかったし、ほらウィンウィン?な関係でしょ~
今日の君のお相手は、あのトラネス歌姫レイラちゃん!」
確か最近デビューしたバンドグループの名前。メンバーのビジュアルよし、デビュー曲も大ヒット。
そしてレイラという名の女の子は、マリエとあの町でずっと一緒にいた幼馴染の一人の名前だ。
「マリエっ、ようやく会えたね」
「レイラ…」
「もう勝手にどこか行っちゃったりしないでよね」
「ごめんね…ごめんなさい」
レイラの変わらない小動物のような可愛い笑顔。マリエはレイラから目線を外すことができずに見とれていると、動かない彼女に飛び掛かるようにレイラは抱き着いた。
こんなにも華奢な女の子に、こんなにも締め付けられるような苦しさを感じるのか。マリエの瞳からはポロポロと涙があふれて止まらなかった。子供のように大きな声で泣きひきつく。つられてレイラまでもわんわんと泣き始めてしまった。
2人が落ち着いた時にはメガネの記者やアイは笑っており、ボロボロになったメイクは素早くアイが直してくれた。時間は少し押してしまったが、だれも嫌な顔せず終わった。
“期待の2人のヒロイン”
こんな見出しでマリエとレイラの自然な笑顔の写真が大きく雑誌のページを飾った。
まさかこんなところで再開できるなんて思いもしなかった。