第1章 心樹アヴェル
薄暗い通路から中庭に出ると、辺りは火の海だった。
アヤの大好きな風景はそこには無く、大樹の枝葉には火が付き、轟々と燃え盛っている。
「アヴェル!!!火が・・・!」
アヤは思わず立ち止まった。
炎に包まれバチバチと火の粉が飛び交う大樹は、
根本から大きく傾き、今まさに倒れようとしていた。
「ひどい・・・・。」
アヤは樹の前に佇み、瞼を閉じた。
青々と茂る美しい大樹が目に浮かぶ。
「アヴェル・・・。折れるって、このことだったのね・・・?」
アヤが悲しそうに呟くと、聞き覚えのある優しい声が脳内に響く。
《樹が失われようと、我の魂はそなたの傍にある。アヤ、立ち止まってはいけない。さあ・・・!》
瞳を開けると、アヤは名残惜しそうに駆け出した。