第1章 心樹アヴェル
雷鳴が轟き、断末魔が響き渡る。
平穏に包まれていた日々に終わりが訪れようとしていた。
「国王様!王妃様!アヤ様を連れてお逃げ下さい!!ここは私が・・・ぎゃあああ!!」
突如黒ずくめの集団に襲撃を受け、城内は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
家臣達は無残に殺され、今まさに王の間に危機が迫ろうとしていた。
玉座の裏側に身を潜めていた国王が、隣で震えるアヤの頭を優しく撫でた。
「やはりこうなってしまったか・・・。」
国王は項垂れると、愛しい娘を見つめ、意を決したように王妃と目を合わせた。
王妃は察し、深く頷いた。アヤと同じアメジスト色の瞳を持つ、美しい女性だった。
「アヤ・・・。足元の隠し階段から中庭に出なさい。樹の根に城下町へ続く隠し通路がある。」
「いやだよ!おとうさまとおかあさまも一緒に・・・!」
大泣きするアヤを国王と王妃は抱きしめた。
「泣かないで、アヤ。あなたは強いレディでしょう?母様達も必ず後を追うから、言う事を聞いて?」
「う・・・ひっく・・・はい・・・。」
王妃は優しく微笑むと、アヤの首にペンダントをかけた。
アヤの瞳と同じ色をした大粒の美しい宝石が光っている。
「城下町の宿を訪ねなさい。大きな剣が目印よ?」
優しい父と母の抱擁を受け止めて、アヤは足元の小さなくぼみを押し込んだ。
ガコンと鈍い音を立て、階段へ続く梯子が姿を現す。
たどたどしく梯子を降りるアヤの様子を、国王と王妃は見守った。
地に足がついた事を確認すると、国王が叫ぶ。
「走りなさい!!」
父の叫びを合図に、アヤは泣きながら走り出した。