第13章 気配
サボは片手でアヤを横抱きにした状態で、出口と思われる大きなハッチに手をかけた。
ギリギリと音を立ててハッチが開くと、うっすらと月の光が差し込む。
「アヤ、ちょっと揺れるぞ」
サボはそう言うと、近くにあった中でもひときわ高い建物に飛び上がった。
すると、サボが跳躍したとほぼ同時に、ハッチのあった場所から勢いよく水が吹き出した。
どうやらアヤ達が出てきたアジトの出口は、街の中心部にある噴水の真下に位置していたようだ。
建物の頂上で風を受け、サボのコートがバタバタと音を立てる。
「アヤ、行きたいのはどの辺だ?」
「え・・・と、あそこ。」
あの大きな樹の方。とアヤが指差し指した先には、ひときわ大きなヤルキマン・マングローブがそびえていた。
「ん。35番な。しっかり捕まってろ」
サボはアヤを抱く腕に力を込めると軽々と跳躍し、移動を開始した。
「そんな、わけ、ない・・・。」
気がつくとアヤはぽろぽろと大粒の涙を流していた。
「大丈夫か?」
様子に気づいたサボが、脚は止めずに声をかける。
アヤはサボの襟元をぎゅっと掴んで、震えていた。
「ごめんね、ごめんね。サボ。
なにかの罠かもしれない・・・」
事情はわからないが、連れていってほしいと言われた。
アヤの様子からして、何かありえないことを感じとっているのだろう。
それでも、あの先に求めるものがあるのなら、叶えてやりたい。
「罠でもなんでもいい。
そこに敵がいたとしても、全部おれが蹴散らしてやるから安心しろ。」
アヤはサボの胸に顔を埋めて、小さく頷いた。
35番グローブに降り立ち、サボはアヤをゆっくりと腕から下ろした。
イベントなどに使われる場なのだろうか。
木のふもとの円形の大きな踊り場には、真っ白なローブに身を包んだ女性が立っている。
フードをふわりと下ろすと、長い銀髪が風に揺れ、慈愛に満ちた笑みがアヤに向けられた。
「アヤ・・・。やっと会えた。」
その言葉を聞いた瞬間、アヤは女性に向かって走り出した。
「おかあさま!!!」
女性のその瞳は、アメジストに輝いていた。