第12章 感じる鼓動
海だ
海の匂いがする
深い深い海の底
静寂と、全てを包み込まれるようなこの感覚を
もう一度味わいたいと思っていた
「悪くねェな・・・。」
潮風ならいつも感じていた
そして、いつも周りには家族がいた
沢山の、大切な、家族が
掴みかけた命を、わかりきった挑発に乗り
手放したことは、愚かだったかもしれない
それでも、あの人を侮辱された事が許せなかった
ひとかけらも後悔が無いと言えば、嘘になるかもしれない
でも、今となってはもうよくわからない
とにかく、満ち足りていた
心から、愛していた人達がいた
「オヤジ」
一生かけても返しきれない恩がある
馬鹿な自分に付き合わせてしまった事が悔やまれるが
同じ舞台で戦えたことを誇りに思う
「ルフィ」
泣き虫で、おれの後ろばかりついていた癖に
気付けば信頼できる仲間に囲まれ、驚くほど成長していた
あいつが海賊王になった世界も、悪くないかもしれない
「サボ」
甘やかすのはあいつの悪い癖だが、頭のキレる、頼れる相棒だった
ずっと昔から一緒だったような安心感があった
なぜ、一声かけなかった?お前を一人で逝かせたくなかった
ふわり、と暗闇に弱々しく光がゆらめいた
気が逸れ、思考が停止する
邪魔をしないでくれ
眠りにつく前に、思い出に浸るくらい大目に見てくれよ
ああ・・・光
そう、大切なことを忘れていた
おれを月のように優しく照らして
それでいて夜の静寂のような安堵をくれた
迎えに行くと宣言しておいて、置いてきてしまった
あいつは怒っているだろうか
次に会えた時には、この胸をくすぐるような気持ちを
素直に告げようと思っていた
「アヤ・・・。」
呟くと、熱を感じた
先ほどまで無かった感覚が蘇る
鼓動が、つたう血脈が、肌のぬくもりが
「なんだ・・・?」
暗闇の中、再びぼんやりと光がゆらめいた
四肢の感覚がみるみる蘇ってゆく
おれは、今どんな状況だ?
死んだよな。あん時、確かに
サカズキに貫かれた痛みが鮮明に蘇る
とてもじゃないが助かる状況ではなかった筈だ