第11章 魅惑の人
歩道の人通りは徐々に減り始め、それぞれが帰路につき始めていた。
夕日が差し込む街を、アヤとサボは無言で歩く。
「なぁーーー。悪かったよ・・・。ごめんな?」
サボはもう何度謝ったかわからない位アヤに謝罪をしていたが、当のアヤはひたすら無言を貫いていた。
アヤと触れ合っていた時こそ気持ちが高揚して感覚が麻痺していたが、今思うとかなり強引な事をした。自分のした事をそう簡単に許してもらえるとは思っていない。
しかし、この雰囲気のままアジトに帰れば暫く話せなくなるだろう。アヤに拒絶される事は記憶を取り戻したサボにとっては何より辛いのだ。
「なあアヤ・・・・。」
サボがひどく悲しそうにアヤの名前を呼ぶと、ようやくアヤがぽつり、と呟いた。
「昔からサボだけは優しいお兄ちゃんだったのに。」
「あのさァ・・・一応俺も男だし・・・」
「女だったら誰でもいいの?じゃあそういうお店に行って発散すればいいでしょ!」
珍しくアヤが大きい声を出したもので、サボはびくりと肩を揺らす。
言葉の選び方が悪かったとサボは反省した。勿論誰でもいい訳が無く、アヤであるからこそ歯止めがきかなくなっていたという事は十分に自覚している。
ただ、この感情が俗に言う恋愛感情というものなのかというのが、サボにはいまいちわからないのであった。