第1章 心樹アヴェル
《泣かないで、アヤ。》
アヴェルが初めて樹から降り立っていた。
間近で見たアヴェルは、子供のアヤには言い表せないような美しい少年だった。
「アヴェル・・・!初めて樹からおりてきてくれた!わ~・・・きれいなお顔!」
《アヤ。僕から最初で最後の、プレゼントだよ。》
アヴェルはアヤを包む腕を解くと、そっとアヤの手を取り大ぶりな実を渡した。
「なぁに?へんな模様のフルーツだね?」
不思議そうに見つめるアヤに、アヴェルは告げた。
《女神の末裔よ・・・我はそなたの美しい心に惹かれた。》
「え・・・?めが・・・?」
突然難しい言葉を使いだしたアヴェルに、アヤは不思議そうに首を傾げる。アヴェルは優しく微笑むと、続けた。
《その実を食べるがよい。この先そなたにはとても辛い未来が待ち受けている。だがどんな困難が訪れようと、我が生涯そなたを守ってみせよう。》
「う・・・ん?これを食べたらいいの・・・?」
《そなたであれば我を含め、数多の歴戦の魂を従える事ができよう。戦乙女ヴァルキリーの末裔よ。》
「た、たましい・・・?人は死んだら、魂だけになるんだっけ・・・?」
アヤはアヴェルの言っている事がよくわからなかったが、両手に乗せた実を見つめた。
色も、模様も見たことのないような実だった。見るからに美味しくなさそうだ。でも、大切な友達のくれたものを食べないわけにはいかない。
「た、食べるわ!アヴェル、ありがとう!!」
意を決したようにアヤが顔を上げると、そこにアヴェルの姿は無かった。
「アヴェル・・・?」
辺りを見回したが、アヴァルはどこにもいない。
両手に残した実をじっと見つめると、アヤは大きな口を開けた。