第3章 夢から覚める
《アヤ、気分転換に島を出てみたらどうだい?》
テーブルに腰かけて沈んでいる私の脳内にアヴェルの声が響いた。
私が10歳を迎えた頃からどんどん聞こえるようになったアヴェルの声は、実体化こそできないけれど、私に憑依して体術を叩き込んでくれた張本人でもある。
(そうだね・・・。私ももう、昔のままじゃないもんね。
それに今の私ならきっと、“彼ら”と肩を並べられるはず。)
言葉は発さず私が返事をすると、アヴェルがくすりと笑った。
《アヤはもう実の力も十分に引き出せる。旅をしてごらん?きっといい事があるよ。》
アヴェルがそう言うなら間違いは無い。
私はマキノさんが出してくれたスープを一口飲むと、頬をぱんっと叩いた。
「マキノさん!私、この島を出るよ!」
私が勢いよく立ち上がると、マキノさんの手からガシャンとお皿が落ちた。恐ろしく怯えた表情で私に詰め寄る。
「アヤ、早まっちゃだめよ!女の子一人で旅なんて・・・!」
「ただの女の子じゃないよ?私がおっきいクマとか海王類を一人でこてんぱんにできるの、知ってるでしょ?」
自信たっぷりに笑って見せると、マキノさんは諦めたように微笑んだ。
何を言っても私の決意が変わらないという事が伝わったようだった。
「もう、どうしてそういう所はルフィ達と一緒なのかしら・・・。でも、ガープさんが知ったら・・・。」
あ、ガープさんの事を忘れてた・・・。恐らく私が旅に出ると知ったら、血相を変えて怒るだろう。
“敵は悪い奴らだけとは限らん。この島から決して出てはならんぞ!!”
わかってる。わかってるけど・・・。
「自分の身は自分で守れるよ。もう、何もできないのは、嫌なの!」
スープの底に移った私の顔は、今にも泣き出しそうに笑っていた。