第3章 夢から覚める
「う・・・ん。」
長い夢を見ていた気がする。気だるい体を起こすと、ぱさりとベッドから紙が落ちた。
“火拳のエース 処刑される”と大きく見出しに出ている号外新聞だ。
一晩中泣いていたせいか、体が重い。
立ち上がって衣服を整えると、姿見に自分の姿が映った。
18歳になったアヤは母譲りの美しい女性に成長していた。
傷一つ無い真っ白な肌は、フーシャ村の人々に大切に守られてきた証。
真っ赤に腫れあがったアヤの瞼は開き切らず、だらりと垂れた前髪から僅かに美しいアメジストの瞳が覗く。
ここの所思い出せば泣いて床に伏せていたせいでぼろぼろの姿だった。
エースが海軍に処刑された事を知ってから一週間が経っていた。
ルフィはエースを助けようとして大怪我を負って、今は消息不明。
“俺が十分強くなったら、アヤを迎えに行くからな!拒否権はねェぞ!!”
エースの言葉が脳裏をよぎる。
「うそつき・・・。」
サボもエースも仲良く揃って死んじゃうなんて、ほんとに、ばか・・・。
また涙が出そうになるのを必死に堪えて、キッチンに向かった。
コンロの前に立っていたマキノさんがハッとしたように振り向いた。
「アヤ・・・!良かった起きたのね?スープがあるから温めるわ。」
「うん。ありがとう・・・。」
エースが死んだ知らせを受けて取り乱していた私を、マキノさんは嫌な顔一つせず何度も励ましてくれた。
マキノさんも私の大切な家族のひとり。今では母親のように思っている。
“海軍を一人残らず殺してやる”
怒りに震えながらフーシャ村を飛び出そうとする私を村の人たちは必死で止めた。
冗談を言っている訳じゃない。エースやルフィが旅立つのを見送りながら私なりに何年も修行を重ね、強くなった。今ではガープさんのお墨付きだ。
ガープさんは最後までエースの処刑に反対していたらしい。傷も癒えないまま村に来て土下座をされた時、だれかを怨んだって、どうにもならない事を深く理解した。