第1章 Ticket
「これからお話するんだよ」と答える彼女に気のない返事をしたバーテンは、馴れた手つきでグラスにオレンジ色のカクテルを注いだ。
卓上にそれを滑らせた後、彼は坂木に対し「仲良くしてやってください」と暗に釘を刺す。「肝に銘じておきます」と返事になっていない返事をすれば、兄らしい満足気な表情を浮かべその場を離れた。
「じゃあ、乾杯しましょう?」
「あぁ、そうだな」
ようやく始まった2人の時間。決まった掛け声でグラスを重ね、決まった流れでグラスに口を付け……坂木は盛大に咳き込んだ。
「ちょっ! 大丈夫ですか!?」という声に片手を上げて答える。
アルコール度数が異様に高いのは気のせいか?熱い口元を抑えながら、坂木はどこからともなく視線を感じ、それを辿る。
その先にはやはり……と言うべきか、この酒を作った男の姿。満面の笑みでこちらを見ている。
「お水もらいます?」
「いや……大丈夫だ」
まぁ、ふつうの女であれば、男が酒飲んで咳き込んでいたら恰好悪いとでも思うのだろう。坂木は何かを諦めた後、もう一度グラスを傾けゴクリと喉を鳴らしてみせた。
その様子を見た彼女は表情を緩ませ、首をかしげる。
「それで、聞きたい事って何ですか?」
興味深げな瞳の色に誘われる。
坂木は口内に広がるアルコールに「これは口説き文句じゃねぇからな」と、言い訳を前置きをしてから本題に入った。