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Seaside【あおざくら・坂木】

第1章 Ticket



そんな人が、照れくさそうにしている様子は……そう、アレだ。とても、以外。

ふふっと水野の口元から、堪えきれなかった笑いが漏れた。


「ありがとう。私も一緒に行きたい」


心からそう返事をすれば、坂木はただ一言「そうか」と答え、穏やかな笑顔を見せた。

2人はの視線は、自然と遠くに輝く観覧車に向けられる。

先程まで見上げる程大きかったのに、ここからでは片手に収まる程小さい。


「次は観覧車に乗りたいなぁ」

「あそこは密室だぞ?」

「ん? 坂木くん狭い所ダメなの?」


意図の伝わらなかった坂木は息をつくと、小さな手を引き水野を抱き寄せた。


「……こういう事されても、逃げ場がねぇぞ? って言ってんだ」


耳元に口を寄せ忠告すれば、腕の中で小さな身体が震えるのを感じた。坂木は柔らかな身体を今一度きつく抱いてから、優しく腕を解く。


「――っ!!」


声にならない感情が、水野の動きを止めた。彼女の口元は堅く結ばれ、瞳は僅かに潤んでいる。


「……嫌だったか?」


坂木の問いに、彼女は首を横にふって答える。


「坂木くんを、もっと知りたい。そしたら、一緒に乗りたいな……その……観覧車、に」


言い淀みながらも、丸く大きな瞳は坂木を真っ直ぐ捉えていた。


「それは光栄だな」


坂木はチケットを持つ水野の手に、自身の手を重ねる。


「時間は沢山ある。本当に俺で良いのか、ゆっくり考えてくれるか?」

「分かった。坂木くんも、私を知ってくれる?」

「勿論だ」


一度、互いに顔を見合わせ……そして照れや喜びをごまかすように、笑い合った。

2人の手の中には、観覧車が描かれたチケット。
有効期限は今日から1年。

それは、使われる時を待っている。


【Ticket】 END
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