第1章 Ticket
真横に座ると思いの他距離が近い。
彼女は正面から見ると可愛らしく見えるが、横顔は大人びているようだ。耳元に髪をかける仕草の最中、細い首筋と腕に思わず目が止まる。
「……ここにはよく来るのか?」
視線をカウンターの向こうに並ぶボトルに向けながら、平静を装って言葉を紡ぐ。
シンプルなシャツに、少し秋めいてきた気候にピッタリな暖色系のスカート。そして耳元で揺れるゴールドのピアスが似合ってる――なんて、女の服装に無頓着な俺が語るのは、あまりにも滑稽だ。
「今日が初めてです。ずっと来るなって言われてて……でも、今日は無断で来ちゃいました」
「知り合いでも?」
「あそこでお客さんと話してるの、私のお兄ちゃんなんです」
彼女がカウンターの内側に立つバーテンを指差すと、坂木は「なるほど」と納得したように頷いた。
「こういう場所は1人じゃなくて、友達と来いよ」
「私の大学都内で、この辺に友達居ないんです。やっぱり……1人で来るっておかしいですかね?」
「おかしくはねぇが、男釣りに来てんのかと思った」
「あぁ! やっぱりそう見えちゃいますよね!」
そんなつもりじゃないのに。と、彼女は苦笑いをこぼす。
幾分柔らかくなった雰囲気を感じ、坂木は店内で彼女を捉えた時からずっと抱えていた『聞きたい事』を口にした。