第1章 Ticket
「西脇、テメェ飲みすぎだ」
「坂木が女性に声を掛けるなんて、珍しい事もあるもんだ! 御嬢さん、彼はいい男でしょう!?」
「えぇ、とっても良い方ですね」
早速水野にまで絡みだした西脇に、視線でテーブル席から岡田と大久保を呼び出した。ぞろぞろと集まってきた男達に、隣に座る彼女は目を丸くしている。
「うちの連れが迷惑をかけ申し訳ない」
「気になるのは分かるけど、あっちで飲もうね~」
大男を自席へ引きずり戻す様子を眺め、坂木は細く、長く息を吐いた。
「なぁ、場所替えねぇか?」
問題ないという彼女の返事に、坂木は右手を上げて彼女の兄を呼び出した。
チェックを頼むと同時に彼女を借りると告げると、彼は訝しげに眉を寄せたが……自身が防大生であり、今日は門限までに帰らなければならない旨を伝えれば、驚きつつも随分と安心した様子だった。
一方、坂木の横では会話を聞いていた水野が「防大!?」と大袈裟な声を上げていた。
「色々納得しました」と呟くその言葉は、一体何に納得したのか疑問だが。あえてここで話を膨らませる事はしないでおく。
「ごちそう様でした。カクテル美味しかったです」
「あぁ、ぜひまた来て下さい。その時はまた心を込めて作りますよ」
「今日の一杯は、文字通り痺れました」
心を込めた酒の味を思い出し、坂木が目を細めれば「ゴメンゴメン」と悪びれない様子で謝る兄。言葉と行動に矛盾があるが、嫌な気はしなかった。
「お兄ちゃん仕事頑張ってね!」
「お前はあんまり遅くならないように!」
世話を焼く家兄を店内に残し、坂木は水野を連れてガラス戸を押し開けた。