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初恋は金木犀

第1章 初恋は金木犀



今、なぜか彼と横並びで歩いていた。お互いに親しい間柄ではないため、なんとなく気不味い。なぜ一緒に帰るはめになったのかというと、お互いが途中まで同じ方向であったことと、「遅いから送るよ。」という彼の言葉に甘えたからだった。


甘えたというより、少しだけ期待していた。

横から見つめる彼は、やっぱりをときめかせた。


ただ、お互いにおしゃべりではないからか、話は途切れがちで、どことなく微妙な雰囲気に包まれる。それでも、は、自分にとってはかなり勇気を出して、期末テストのことや明日の学年集会が面倒だなんて、他愛もない話ばかりを続けた。

この時間がまだ続けばいいのにと密かに思った。しかし、角を曲がって信号を渡れば、もうすぐ私の家についてしまいそうだった。




「…なんで、さんは、あんなところにいたの?」


ふいに声をかけられた。


「…え?」

「…なにもないじゃん。あそこ。……さんは、自転車通学でも、ないしさ。」


そう呟きながら、彼はの方をちらっとみる。はぎゅっとカバンを持ち直した。


「………金木犀があったから。」

「…金木犀?」


金木犀の話をした。中庭で金木犀を見つけたことや、小学生の時の思い出、懐かしくなってひとりで見ていたこと。ただ、白石君を見ていたとは到底言えなかった。


「…ふーん。金木犀か。…あっ。」


あんまり興味がなさそうな感じであるが、に向けるその眼差しさにはどこか優しさがあった。ただ、自身がそんな眼差しを受けていることには気づいていない。

そんな彼が咄嗟に声をあげた。

「…え?」

「…信号!ここ赤になると長いからさっ!ほら!」

ほらという声の先、青から赤への点滅を始めた横断歩道の信号が見えた。確かに彼の言う通りここの横断歩道は赤になるとなかなか青にならなかった。


ほらっと言って捕まれた腕

引っ張られる力は女の子とは全然違う

捕まれたところが熱を持つ

風が金木犀の香りを連れてくる


寸前で信号を渡りきった。急に走ったためか、お互いに息が荒い。まだ腕は捕まれたままだった。は息苦しさよりも、そっちに意識が集中してしまっていて、そのせいでうまく呼吸ができないでいた。

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