第1章 初恋は金木犀
「ママー!はやくー!」
が目をつぶって甘い匂いを楽しんでいると、遠くからを呼ぶ声がした。
「ごーはーん!おーべーんーとーおー!」
今日は、久しぶりに家族でピクニックに来ている。朝からたくさんお弁当やおやつを準備して、娘は小さいママみたいに張り切っているし、息子は虫をたくさん捕まえると意気込んでいた。
「はーい!」
金木犀を見つけて懐かしくて思わず駆け寄ってしまった。甘い香りに誘われるのは、昔から何も変わってない。余談だが、あれから白石君とは特に何もなかった。お互いに変に意識してしまって、普通に高校生活を送ってしまった。
今でもときどき思い出す。
夫にはきっとずっと内緒。
金木犀の季節だけは少女に戻る。
最後にもう一度だけ、胸いっぱいに息を吸い込んだ。あのときとは似てるようで違うような、甘くてしっとりした香りが鼻をくすぐる。
ふと、あの優しい眼差しに見つめられたような気がした。
初恋は金木犀
おわり