第10章 姫君の憂鬱2(菅原孝支)
珍しくその日は、菅原くんがベッドに押し倒してきた。
でも、何かするというわけでもなく、ただぎゅっと抱きついてきて、泣きそうな声で呟いていた。
「試合、出たかった…」
なんとなくでしか、察しが出来なかったけど、あまりにもツラかったのだろうとは思った。
だから、ぎゅっと抱き締め返してあげる。
洗い立ての湿った髪がくすぐったい。
「ごめん、嫌だった?」
「嬉しいよ、すごく。
やっとお礼が出来るみたいで」
いつも甘やかして貰ってる分、私もお返しできるようで。
拗ねたような呟きをする菅原くんが可愛いと思った。
ちゅっと音を立てて触れるだけのキスをしてあげると、驚いた顔をする。
「朝までいて…?」
どういう意味か、察してほしいんだけど。
ちゃんと言わなきゃ今日もダメそうだった。
「でも、さんのご家族…」
「帰ってきてないから、いいよ」
「わかった…」
「ね、どういう意味か、わかる?」
「……あー、うん…」
相変わらず緊張するらしいソレに、渋る顔を少し見せる。
「いや?」
「や、さんが好き過ぎて、頭おかしくなりそうだなって…」
「…っ!」
「ごめ…!い、今めっちゃ恥ずかしいこと言ったよね!
あー、もー…」
彼にも、こういうとこあるんだと思うと、嬉しい。
いつも、寂しい思いしてるのは私だけだと思っていたから。
だから、いつもより照れた顔をしてしまったと思う。
「孝支くん…」
悪戯心に初めて名前を呼んであげれば、白い肌が桃のように色づいた。