第6章 白昼夢幻想曲3(烏養繋心)
車を開けると、潮風がまわる。
季節は移り変わったけど、私にとって、最初の場所。
懐かしいそこに、楽譜はとうに消えてしまっただろうか。
何もかも終わりにしたかったその日、脱け殻が落ちたように身体が軽くなったのを覚えている。
「…は、このままでいいのか?」
「はい」
「俺は、よくない」
「……っ」
いずれこうなるとは思っていた。
興味ないのは、わかっていたから。
それでも、いざそう言われると、ずきずきとどこかが痛む。
「……終わりに、なるんですか?」
「ああ」
衝動的に、あまりの痛みに耐えられず、私は立ち上がって波打ち際に走った。
「おい、待てよ!」
「やだ…!」
靴を脱ぎ捨てて、満ちた潮に少しずつ足を進める。
冷たい水がきんきんとしていて痛い。
でも、そんな痛みに比べたら……!
「私が、邪魔ですよね?」
「そうじゃなくて!」
「いいんです、最初からわかってました、こうなるって……。
みんな、私に興味ないんです。
初めて、それでいいって思えたんです…。
でも、拒絶は、怖いから……、だからっ…」
「人の話を聞け」
ばしゃばしゃと高い波を掻き分けて、またしてくれたように担がれて、本当に同じ事を繰り返した。
どちらかが夢のようにすら思える。
「やだ!何するんですか!」
暴れても叫んでも下ろして貰えず、そのまま悪態をつかれながら、言い合いをしながら連れていかれた。