第6章 白昼夢幻想曲3(烏養繋心)
「学校サボれるか?」
「…いいですけど、どうして?」
「や、入選記念に、出掛けてやろうかって…」
「ほんと!?」
飛び起きて思わずブランケットを弾いた。
何も身に纏っていなかったのを後から思い出し、慌てて側の枕を胸に抱える。
「本当?いいんですか?」
「そんなんでよければ」
「どうしよう……嬉しい……」
まともに顔も見られないくらいに。
「大げさだ」
くくっといつもみたいに笑われて、髪をくしゃっと撫でられる。
支度を促され、重たい身体を抱き起こし、私はなるべく急いで身なりを整えた。
幼い頃から練習漬けの私は、あまりにも住んでいる土地に疎かった。
知らない場所ばかりで、彼はとても驚いていた。
「友達と遊んだりしなかったか?
……お前、友達いんのか?」
ふとそう聞いてきたのは、いつも私が単独でいるからだろう。
「1人だけ、いたんです。
でも、何ヵ月か前に色々あって…」
そう、もう何もかもが嫌になったあの日、私はたった1人の相談相手すら失った。
友達と思っていたのは私だけだった、というよくある展開だ。
「学校でもいつも練習しているからかな、なんか、近寄り難いみたいで。
口下手だし…、もう卒業するから、いいんですけど…」
確かに少し寂しい。
卒業式までの残りわずかな時間を、楽しく過ごせればよかったのだけれど。
彼と歩いてきた街並みを見ながら、なんとなくそう思った。
可愛い服を見てはしゃいだり、季節で変わるカフェのメニューを楽しんだり、海の流れる情景にうっとりしたり、もっとしたかった。
私にもっと才能があれば、それも出来たのだろう。
でも、演奏に時間を割かないと、親の望む私にはなれない。