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【短編集】慟哭のファンタジア【HQ】【裏】

第5章 姫君の憂鬱(菅原孝支)


「やぁあっ…!」
「ごめん…っ、今の、痛くなかった?」
あまりにも優しいのがもどかしくてくすぐったい。
「あっ、だいじょうぶ…っ」
奥を掠める先が遠慮がちにゆっくりと浸入してくる。
それでも、好きなヒトというだけで凄く満足するのだから、人間は単純だなとぼんやり思った。
「痛いくらい、でっ、いいんだよ」
「俺が、嫌なんだよ」
「ん、なん…」
「毎日、生きるのすら…苦しそうなんだ」
苦しそう。
そんなこと、初めて言われたかもしれない。
確かに、家を出たのに、毎日考えているのはあそこのことばかり。
あたたかい家だったのが、ぱたりと沈黙した。
そういえば、玄関の金魚はまだ生きているだろうか。
私がご飯をあげなくなって、誰かに貰っているだろうか。
「せめて、俺といる間は…、痛みも苦しみもない、そんな時間にして欲しい…っ」
「そうだね、菅原くんといると、違う意味で苦しいかもしれない」
彼の優しさはどこまでも私を甘やかす。
子供の我が儘を、残酷さを許しているようで、自分が怖くなる。
「ごめん、直すから……」
なんで泣きそうなんだろう。
よしよしと頭を撫でながらぎゅっと引き寄せると、奥ふかくにますます繋がる。
「あっ…、ちゃんと、私を、叱って?
勝手なことしないでって、言って…っ!」
「いつも言ってる」
「うそぉ…いつも、あぁ…ん、甘えてるよ…私……」
お腹の奥で、コツコツとノックされるような感覚が襲う。
甘えた声を出しながら、否定をするのに、彼は頑なだ。
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