第4章 白昼夢幻想曲2(烏養繋心)
恋人でもないのに、横で煙が揺蕩うのを眺める。
清潔にしてもらった湯上がりの身体が、柔らかい泥の中にいるみたいに気持ちがいい。
「飴、食べたか?」
ふと、思い出したかのように聞かれる。
「……まだ…」
恥ずかしくて、聞こえないようにとどこか思ってしまって、声が小さくなる。
「ぁー……まじか…」
「気持ち悪い、ですよね……ごめんなさい…」
「や、そんなつもりで言ったんじゃなくてな…」
着替えも早々に彼は立ち上がって、部屋の引き出しを片っ端から開けていた。
うっすらついた背中の筋肉が目に入り、慌てて顔を伏せてしまった。
「あ、あった。これやるよ。
食い物じゃねーから取っとけるし、腐らねーし。
大事な試合で腹壊されても困るからな」
少し乱雑に手から渡された物は、シンプルな作りのピアスだった。
「俺の勝負アクセだ!
つっても、付ける時なくなったし、いい年になったからな…」
「…あ」
優しいその顔と声が、近付く。
心臓の音も聞こえてしまいそうで、受け取ると慌てて身体を退く。
「ありがとうございます……」
小さいのにずっしりと重みのあるそれは、高価な物だとすぐにわかった。
「でも、本当にいいんですか…?」
「ああ」
「勘違い、しますよ…?」
「好きにしろっつっただろ」
「自惚れちゃいますよ?」
「勝手にしろよ」
「………好きです」
「ありがとーよ」
私が返事を聞かないのを知ってか、自然とそう答えてくれた。
大切な宝物がまた増えてしまった。
(でも、あのキャンディ、食べられないなあ……)
シーツがきしっともうひとつの重みを拾うと、素肌同士が密着して体温が伝わる。
「勘違い、してんのか?」
背中越しに問われてこくこくと頷くことしか出来ない。
顔を見たら粉々になってしまいそうだ。
「…ぁ、私、こんなに貰ってるのに、何も返せないなって……思って……」
「いや、大事なもん、貰ってるから」
「え?何を?」
彼は息を詰めてから、少し間を空けてから答えた。
「十代女子の、貴重な時間」
あまりにももて余しているものを…と、思わず頬が緩んだ。
「いくらでも、どうぞ」