第4章 白昼夢幻想曲2(烏養繋心)
赤いドレスは少し重たい。
生地は軽いはずなのに、鉛をたくさん付けたようにすら感じる。
熱いスポットライトが当たるステージと、たった数人の観客。
緊張は、しない。
いつものこと。
嫌いな課題曲とやっとお別れが出来るから、コンクール当日は好き。
白と黒しかない視界を虚ろに思いながら、嫌いな曲を叩いた。
たった数人の拍手。
こんなにもつまらないステージもなかなかない。
達成感も特になく、鉛のような装備を捨てて帰路についた。
「よくやったわ」
車の中で始終、普段褒めもしない母がひたすらに褒めてくる。
自分ではとってすらいないトロフィーを撫でながら。
(気持ち悪い)
「次の日程を決めなきゃ…そろそろ仕事も来るといいわね!?」
呆れてため息しか出ない。
何度となく思っているが、私は天才ではない。
才能も全くない。
弾いたところで少し上手いレベル。
どこまで夢の話をしているんだろうか。
「3位だけど……なんとかなりました」
次に会ったとき、報告だけはした。
「やるじゃん」
「うん、お陰様で」
「褒美をやろう。何が望みだ?」
面白おかしく、そう聞くと、真っ直ぐ私の顔を見てきた。
「…なにも、考えてなかった……」
「相変わらず欲のない奴だな」
くくっと掠れた声で笑われる。
何故かそれが凄く好きに思えて、胸がぎゅっとなった。
「すごく、欲張りですよ、私は…。
自分が嫌いになりそうです……」
「いいことだ」
「だから、だから……、今日も帰りたくないんです……」