第4章 白昼夢幻想曲2(烏養繋心)
放課後、自習室は同好会が使用していた。
今日は吹奏楽部も練習日で、かわりに、と体育館のグランドピアノの鍵を借りた。
他の部活が練習をしていたけれど、家の中でやるよりもずっとマシだ。
喧騒が心地いい。
調律を怠っているピアノの、ビーンという余韻。
完璧じゃないのが、また味があっていい。
怒る人がいないのをいいことに、キャンディに流行りの恋愛の歌を2、3曲捧げる。
聴いて覚えたコードはたまにずれてしまう。
今日は来ているんだろうか。
帰りに会えたら、嬉しい。
穏やかに、冷静に、一音も落とさずに…。
心が落ち着いてから、毎日付き合っているのに仲良くなれない課題曲に入る。
必ずつまずくところ、必ず抜かしてしまう一音、本当に、
「嫌い…」
額から落ちた汗が、手の甲に着地した。
「あっ」
体育館には誰もいなかった。
無心に練習していたのはいつぶりだろうか。
コンクール前に腱鞘炎になるのが心配だ。
手首を動かし、その可能性がなさそうなのを確認した。
「はぁ…やっちゃった…」
「お疲れ」
「…っ!」
会いたかった、ずっと思っていた。
見られたくなくて慌てて飴をスカートにしまって、 目で挨拶をする。
「鍵、明日でいいって先生が。
ここのも借りたから終るまで待ってた」
「あ、すみません……。
気が付きませんでした……」
「気にすんな」
うっかり告白してしまってから会うのは初めてだ。
(気まずい…!)