第28章 姫君の憂鬱4(菅原孝支)
その笑顔は、あまりに眩しかった。
夕陽のせいもあるかもしれない。
それでも。
そこで俺は初めて彼女にこういう感情を抱いた。
今までの恋愛とも、流れでシていたようなそんな他愛のない物でもない。
迷いのないほどの、烈情。
森を燃やし尽くしてしまいそうな程の熱いモノが、抑えきれなくてどんどんと溢れていく。
恋なんかでは、とてもカバーできないような気持ちが、どっと吐き気のようにこみあげる。
俺はそれが、なんとなく、なんとなくだけれど、
怖いと思った。
今までは、さんに言われるまで、触らないようにしていた。
そういう風に、人は制御出来る。
そう思っていた。
でも、今は違う。
押し出される血液が、今までとは全く違う。
自然に口づけると、さんは一瞬驚いた後、いつものように応えてくれる。
頭の奥がジンジンとしてくるような、そんなキス。
抑えきれない感情が、どんどんとそれを深くしていく。
彼女の髪を指に絡め、離れないようしっかりと後頭部を抑え、自分が角度を変えてはその舌を捕まえる。
「…っ、ん、ぅ…!」
さんが異変を感じて離そうと、胸を叩いた。
それでやっと正気に戻った。
「ご…ごめん…!」
「…ちょっと、びっくりした…」
「怖がらせた…」
「そこまでじゃないよ…」
ほんとに、と否定はしていたけれど、目にはうっすら涙が浮かんでいる。