第23章 蜂蜜レモネード6(影山vs及川)
「ひっ!」
固くて冷たい…刃物。
それはビリビリと音を立てて進む。
やがて、背中に空気が触れる。
漸くそこで、服が破かれたことに気付いた。
「だめ、だめぇっ!!」
だって、背中には、傷が……!
もがいて手を外そうとしたけれど、どうにも出来ない。
『醜い……、他の人が見たら、なんて言うかな?』
昨夜の徹さんの言葉が頭に反芻する。
「うっ……、おねがい……」
まだうっすら瘡蓋が出来たそこは、手が這うとヒリヒリと痛い。
今どこにいるのかわからないけれど、こんな姿を、もし後輩たちに見られたのなら。
それは、徹さんに与えられた『仕事』が出来なくなる。
私の存在価値が、なくなる。
……そうだ、私は、あのとき、消えるはずだった。
何を今更怯えているんだろう。
「…て……」
「……っ」
「徹さん…、もう、死なせて…ください…」
震える声で、懇願する。
怖いけど、誰にも必要とされないことの方が、怖い。
頭が私にそういう命令をする。
「…だって。トビオちゃん、どうする?」
「!!!!」