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【短編集】慟哭のファンタジア【HQ】【裏】

第2章 白昼夢幻想曲(烏養繋心)


「もう帰るぞ」
「ぁ、……はい」
淡々と後片付けをして、私の服も整えてくれる。
余韻に浸っているのは、私だけ。
「そろそろ立ち直ったか?」
「…全然」
「自分を安売りすんのは止めろよ?」
「……っ、してないですよ」

いつも会って、人気のないところでそうして、通学路まで送ってくれる。
安売りなんて、とんでもない。
好きだから、したいだけ。
本当はもっと一緒にいたい。
あの日みたいに、朝まで隣で話してて欲しい。
ただ好きでいたいだけなのに、どんどん欲深くなる自分が浅ましくて、嫌になる。
ぎゅっと鞄を抱き締めて、さっきまでの体温を思い出す。
それだけで、胸が痛い。
「お前、いつもピアノ弾いてた娘だろ」
「……そうですけど」
「もうやってないのか?」
「……」
今更、私に興味を持つのは止めて欲しい。
離れられなくなってしまう。
「楽器やる奴って、手でわかる」
鞄を持つ手を引かれて、そっと握られる。
私の想いがそこを通して全部筒抜けになりそうで、悲しさとも嬉しさとも違う涙が出そうになる。
恥ずかしいよりももっと深い感情。
探らないで、見ないで、そう心が叫ぶの。
返された掌を広げると、苺の包みのキャンディ。
無性にそれが嬉しくて、今までに貰ったどんな高価なプレゼントよりも大切に思えて、今すぐ好きって胸までつっかえてしまう。
「食えよ、腹減っただろ」
「……空いてない…っ!」
苦しくて、涙がこぼれる。

(勿体なくて、食べられないよ…)

溢れる想いが、瞳から流れていく。
「思春期のお嬢ちゃんは、忙しいな」
くくっと喉で笑われて、私が泣き止むのを待ってくれた。
この淡白な関係を壊してしまう気がして、胸につっかえた想いは、まだ言えない。
抱いて貰えないなら、意味がないから。
だから、この気持ちは、私だけでいい。
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