第1章 可愛い君へ【太宰治】
彼が顔を真っ赤にしながら坂口さんに飛びかかる。
「お前!」
「おうおう顔真っ赤にさせちゃって可愛いなぁ?」
「可愛いって言うな!俺はかっこいいの!」
ぽこぽこと拳で坂口さんの胸を叩く彼はお世辞にもかっこいいとは言い難く。
もちろんかっこいいところは沢山あるけれど、やっぱり今みたいな時は
「…可愛い」
ポロリとこぼれた私の言葉にシン、と当たりが静まった。
えっ、えっ、そんななんで静まったの?!
や、やめてよ太宰さんに聞こえちゃうじゃない…!
「…うっ、お前の前ではカッコいい彼氏でいたかった…」
しゅん、と言う盛大な効果音を背景に背負って彼は項垂れた。
そんな様子に私は慌てて否定する。
「いやっ、太宰さんは何時もかっこいいですから!…けど…その、坂口さんや織田作さんといらっしゃる時は兄弟みたいで素敵だなぁって」
「ほんと?俺、いつもはカッコいい?」
「はい、もちろん!」
そう言って私は自分から彼に抱きついた。
上からボ、ボ、ボ、と火が灯る音と後ろから3人の呆れたような感心したような声が混ざり合って私の耳に降り注ぐ。
「カーっ、やっぱり太宰クンが惚れた女子だけあるわ。手懐け方がちゃうわなこりゃ」
「いやーよくこんなところで2人の世界に入れるよな」
「こんのバカップル野郎が…!今畜生、…アンゴ、織田作付き合え」
「はいはい、全く飲み過ぎんなよー?」
「うるっせぇ!」
彼の胸に遮られて見えなかったけれど、バタバタと3人の声が遠ざかっていきエントランスに二人きりになった。
ご、ごめんなさい3人とも…。
その途端に今まで固まっていた彼が急に抱き返してくる。
「ごめ、ちょっとびっくりして…咄嗟に動けなかったわ」
「あっ、す、すみません…」
今更になって恥ずかしくなって謝りつつ、それでも顔が見たくてちょん、と首を上に向ける。
照れ隠しのためにくちびるを噛んで眉を下げた彼の顔があった。
「謝ることは、ないけど…嬉しかったし」
「はい」
「………ー」
「?」
一度言葉を切ったと思ったら、何かを言いかけてやめてしまう。
不安になって見つめると、何でもないと言って二人きりの時にしか見せない甘い笑顔で微笑まれた。
「それよりさ、今日はこれで潜書も終わりだろ?」
「はいそうですよ」
「んじゃ、アイツら3人で飲みに行っちゃったし今晩は俺に付き合ってくれない?」
