【千銃士】笑わないマスターとfleur-de-lis.
第5章 On ne vit que deux fois.
マスター。
今無事でいるかな?
マスターが捕まったりしたら俺は……だって、俺は、さ……。
胸が、もじゃもじゃして痛い。
「シャルル、俺が囮になる。一人で馬を捕まえてマスターを追え、ついでに林を出たら煙幕弾で援護を呼んでくれ」
「え?」
ベスくんは俺の返事を待たずドンと胸を押して背後の木立に体を倒させる。
その意味を問い返す前にベスくんは銃を手に素早く木に体を寄せながら走り出す。
呆然としていると、林の奥から銃声がしてダンダン、と立て続けに撃ち合いになったらしい音がする。
ハッとして音とは逆の方向に走り出す。
林を出ると口笛を吹く。
聞こえるかな?
暫くすると馬の蹄の音がして、二頭が並走しながらこちらに駆けてくる。
「ドライゼ?」
「シャルルか。他は?」
「中でベスが交戦中」
「俺も行こう。お前は?」
……ドライゼの言葉に唇を噛む。
「マスターを追って、逃げろってベスが」
「そうか。マスターの無事は任せた」
ドライゼは何ら疑問を差し挟まず馬を林の中へ向けた。
俺は……どうしたいんだ?
馬に乗り街へ向かう。
マスターとの合流地点、町外れの木立に行くと彼女専用の芦毛の牝馬がいる。
マスターは一人だ。
どうやらみんなまだ交戦中らしい。