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【千銃士】笑わないマスターとfleur-de-lis.

第5章 On ne vit que deux fois.


「マスター」
声をかければ彼女は弾かれた様にこちらを向いた。――そして腕を広げて走って来て俺を抱き締める。
「良かった……無事、だったんですね?」
いつもの無感情な抑揚のない声じゃない。
涙交じりの震える声音に体が熱を持つ。
じくじく、傷口から血が溢れる様な痛い熱さが腹の底から湧き出す。
「マスター」
自分の腕の中にすっぽり収まりそうな体を抱き返す。
腕が、体がガタガタ震える。歯がガチガチ鳴る。
「シャルル……」
震える俺をなだめるようにマスターの手が背中をさすってきた。
「貴方が無事で良かった」
甘い声に体が溶けてしまいそうだ。
「俺はどうしたらいい?」
聞けば彼女の手が俺の服を掴む。
ぎゅ、と俺の体がそこにあるのを確かめるみたいに。
「……行か、……ないで」
前に一緒に寝た時にみたいな小さな声。
俺を抱き締める腕が震える。
「それは、……のマスターとしての命令?」
聞けば又手が強く服を掴む。
「……ケンタッキー達が前線で食い止めて、シャスポーとタバティエールで敵を散らしてドライゼがそれを仕留めています。短銃はそれぞれの援護をしています。私はみんなが帰ってきたら治癒出来るよう隠れます。あなたは……」
マスターは俺を見る。
「私と共に……いて、もしここまで追っ手がきたら守ってください」
澄んだ目が俺を見て、白い頬に透明な雫が伝う。
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