• テキストサイズ

【千銃士】笑わないマスターとfleur-de-lis.

第4章 イブの時間


タバティエールは勝手知ったるとばかりに棚からシャルトリューズを出した。
「寝酒に良いだろ」
――どうせ楽しい話じゃないんだろう?
とタバティエール。
シャルトリューズに何やら色々入れて最後にぎゅっとレモンを絞る。
スープ用の丸いスプーンを乗せ、そこにはシャルトリューズを張り角砂糖を添えた。
座ったタバティエールはそれを舐める様に飲みながら俺にもショートグラスを差し出す。
「何?」
「『シャンゼリゼ(エリゼの園)』」
タバティエールの言葉にドキリとする。
歌劇『オルフェオとエウディリーチェ』に出てくる地名。
エリゼの園――愛する妻を亡くしたオルフェオが黄泉下りをして辿り着いた場所。
オルフェオの妻、エウディリーチェが住む死後の楽園。
基本的に『オルフェオとエウディリーチェ』はハッピーエンドだけど、オルフェオはエリゼの園(死後の楽園)からの帰り道でエウディリーチェと諍い、振り向いてしまう。
するとエウディリーチェは息絶えてしまうのだ。
――秘密を暴くな、と、言われている気がした。
スプーンの中のシャルトリューズを舐める。
砂糖がホロホロ溶けたそれは体を悪くした時にアスピリンを飲む為のシロップに似た味がする。

「で、話って?」
椅子に寝る様に斜に座りタバコをふかし、シャンゼリゼを一口とやりながらタバティエール。
「呑うかい?」
煙草入れと火石を差し出してくる彼。
「いや……良い」
ちょっとやってみたい気持ちだったけど、煙草は肺にも良くない。
「ムラがないねぇ」
クックッと笑うタバティエールにため息が出る。
「元気ないじゃないか、ロッタちゃん?元気は君の取り柄だろう」
くっとグラスをかたむけるタバティエール。
「聞きたいんだ」
いつもみたいに突っ込まない俺に、タバティエールはちょっと眉を上げて、……頷く。
「何を?」
「マスターの事」
云うとタバティエールは、椅子にしっかり座り直しテーブルの隅につくねてある灰皿で煙草を擦り消す。
「なんなりと」
頬杖をつき、俺の方を向くタバティエール。
「マスターの知ってる事、何でも聞きたい」
「ふむ。……身長1××cm、体重××kg。歳は推定2×歳。血液型は×。…………性交経験は無し」
タバティエールの最後の言葉にぶわっと頭が熱くなる。
/ 55ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp