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【千銃士】笑わないマスターとfleur-de-lis.

第3章 笑わないマスターがちょっとだけ笑う話


後は焼けるのを待つだけだ。
午前に始めたのにもう昼過ぎている。
食堂の方が騒がしい。昼ご飯の配膳が始まっているのだろう。
まだ残っていたワインで喉を潤す。
「で、紅茶はあるんだろうな?」
ベスくんがワクワクしている。
「抜かりなく」
純フランス、イギリスとはいかなかったけど、この辺りの家庭用に茶葉を作ってる農家さんから仕入れた評判の品だ。
赤い缶を見せるとベスくんは開けて香りを吸う。
「アッサムか。悪くない選択だ」
スコーンとクロテッドクリーム、ジャムの甘い匂いを殺しきらないお上品な香りの紅茶にしたのだ。甘さを一口、紅茶を一口とすればサッパリ、――次の一口を楽しめるような。
「どんなもんだい」
「褒めてやるロッタ」
だからロッタはやめてよね!
額から零れてくる汗を拭い温くなっているワインを飲む。
「マスターを呼ぶのか?」
ベスくんが紅茶の缶をテーブルに置いて言う。
「うん」
当然の様にベスくんも一緒する流れになりつつあるが、本来俺は朝からあれやこれやしていたのはマスターの為だ。
「呼んできてやろう」
言いながら彼には珍しいこちらに媚びる様な目にため息が出る。
「KK、一緒に食べよう」
言えばにへらとだらしない顔でベスくんは笑う。…………ちょっと可愛いなんて思ってしまった。
そうだよね。偶には祖国の味が恋しくなったりするもんだし。
クリームティーなんか面倒くさくて中々出来ない。
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