第1章 雄英高校
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至ってそれは、簡単な事だった。
個性を使って体力テストの内容を行っていく、ただそれだけの事。しかし、私の個性上あまり変わらなく最下位の可能性が非常に高い。
握力検査が終わり、少し疲れがきたので腕を伸ばしていると「あの……。」と控えめな声で私を呼んだ。そこには、朝の教室で私の事を起こしてくれたあの黒髪ポニーテールの子。なんの用だろうか?
「植村すみれさんで宜しいですよね?」
「はい、どうかしましたか。」
「八百万百と申します。あの植村さん……。」
八百万百……。朝、クラス発表の紙に自分の名前が書いてある近くにいた子だ。八百万百……八百万さん。どうしたのだろうか?
八百万さんをじっと見つめていると咳払いをし、戸惑いながらも口を開けた。
「植村さんの個性とは、一体何でしょうか……。一度、お会いした事があるのですがそれでも分からなくて。」
「あ、あぁ。」
一度、お会い……?私が忘れているだけなのか八百万さんは勘違いをしているのかどうかは分からないけれど、覚えがない。どこでお会いしたのだろうか?その疑問を口に出そうとした瞬間、八百万さんは慌て始めて手をギュッと握られた。
「わ、すみません。個性教えたくないのであれば、教えなくてよろしいのですよ。」
手が暖かくて何だか体が軽くなった気がした。お婆ちゃんと一緒にいるみたいだ。何と言うだろうか……居心地が良い?でも、なんで謝ったのだろうか。それが八百万さんの不思議なところだ。そんな疑問を言おうとした瞬間、「八百万さーん。」と女子の声が聞こえた。
順番を呼ばれたらしく八百万さんは手を離し、私に微笑んだ。
「またお話をしましょう!」
八百万さんは駆け足で次の種目に行った。私は、握られた手に目線がいかせる。何だったんだろうか、凄く心が軽くなった気がした。
八百万さんの個性だろうか?しかし、八百万さんの種目を見ている限りではそうではない。何だろう、この気持ちは。
次、競技に呼ばれそうだったので体育館を出て次の種目に向かった。