第14章 レモンの花(木兎光太郎)
ふわりと薬品のにおいがするベッドに包まれる。
なるべく触れないように、ぎゅっと自分の手を握る。
こうちゃんの優しい手つきが、尚も私を好きにさせていく。
少しずつ剥がされていくことにどきどきと緊張が止まらない。
「…っ」
目をきつく瞑っているから、何かが唇に触れた瞬間、反射的に手を出してしまった。
「ぁ!」
「…ご、ごめん…!」
「……っ、ぁ、ごめんな、さい……」
心配そうに大きな身体が離れる。
「……ち、ちがうの…」
否定したいのに、身体が震えて出来ない。
「ごめんね…ごめんね…!!」
走る、という言葉があまりにも似合わないくらい、よろよろとさっきまでいた洗面所に隠れてしまった。
きっと、沢山我慢させてしまったと思う。
それは、私の気持ちと、この障害のせいで。
悲しくて悔しくて、涙がぽろぽろと流れていく。
それすらも汚いと思う。
消毒液のせいでかさかさになってしまった指が痛い。
なんで、なんで、わたしなんだろう。
「ねえ、こうちゃん……」
私はこうちゃんにツラい思いをして欲しい訳じゃない。
いつでも、自分を優先して欲しいのに。
震える身体がどうにも止められない。
気持ち悪くて立っていられない。
こうちゃんにじゃない、紛れもない、私が。
脱衣場のドア1枚隔てているだけなのに、地球の反対にいるくらい距離が遠く感じる。
「ねえ……」
返事が聞こえない。
きっと、心配してくれている。
「私の全てがイヤになるの…。
今洗った髪も、かさついた指も、鏡で見た顔も、気持ち悪くて死にそうになる……。
他の人が触れると、気が狂いそうになる…っ」
「関係ねえだろ…!」