第14章 レモンの花(木兎光太郎)
初めて泊まり掛けで遊びに行く約束をした。
それは1か月前からホテルも電車も全部手配してくれて、緊張もしたけど、正直嬉しかった。
特急電車は指定席で、並んでいつも二人でやっているモンスター狩りのゲームを始める。
大きい獣を追い掛けて、笑いながら遊んで、電車だということを思い出して、顔を見合わせてしーってした。
あまりにも楽しくて、夢中だった。
ホテルに行くまでの道は古い町並みで、よくドラマで使われているところだった。
裏のお菓子で有名な通りを行き、お寺と神社をぐるりと回ってきた。
紫陽花と古い通りの相性がよくて、写真をたくさん撮れて、幸せな気持ちでホテルのお部屋に入る。
お部屋の出入口が閉まると同時に、こうちゃんは手を繋ぐ。
そのくらいは、平気。
「こうちゃん、私、お風呂行きたい」
「暑かったもんな!お先どーぞ!!」
私の荷物も持って、そっとベッドの脇に置いてくれる。
「うん、ごめんね…?」
気にすんな、と言って手を振ってくれる。
浴室の大きな鏡。
汗と化粧が流れていく。
つい、使ったものや触ったものを入念に掃除してしまう。
私は汚くない、汚くない。
呪文のように呟いてなんとか勇気を振り絞って、お部屋に戻った。
ただ広くて物のない落ち着かない空間。
雰囲気もまるで誘うかのようで、緊張が高まる。
私の免罪符である消毒液を手につける。
このにおいが、安心する。
身につけているものは全て真新しい。
大丈夫。大丈夫。
でも、やっぱり、自分が気持ち悪い。