第15章 用心棒ときまぐれ姫 前日譚(菅原孝支)
さんはいつものようににっこりと笑うと、また明日、と挨拶して、変わらず俺と同じ方向に歩き出した。
もうすぐ借りてるアパートが見えてくる。
少し残念だがチャンスがあればまた話せるだろう。
日が短いせいでもう月が明るく見える。
他愛もない話をしながら、アパートの前の電柱に二人して立ち止まった。
「じゃ、また……」
そう言いかけたところで、彼女はにっこりと妖艶に笑った。
「で。
菅原くんは、欲しい?
チョコレート」
一音一音、確認するように聞いてきた。
その声はいつもの柔らかいものだったけれど、どこかしっかりと音になっていて、訳もわからないくらい自分の血が熱くなっていく。
どういうつもりで言ってるんだろう。
馬鹿にされてるのかからかわれてるのか。
「…別に。また明日」
素っ気なくそう返事して、彼女の顔を見ないようにして帰った。
凄く腹が立ったし、ムカついたし、もやもやするし、もっと怒っていいはずなのに。
なのに。
死にそうなくらいドキドキしてるのは、なんなんだろう。