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【短編集】【HQ】純情セレナーデ

第13章 言の葉の音に2(西谷夕)


「ま、まって…!」
少しうるさかっただろうか。
何人かの人がこちらを向いた。

図書館を出ると、昼過ぎのピークの暑さ。
コンクリートからむわっという熱気がくる。
さぞ蝉がうるさく鳴いているんだろう、もう、私には聞こえないけれど……。

「なんだよ、それ……」
「ごめんね」
「謝ることじゃねえよ」
「うん、それでも……」

西谷くんが、私が聞こえやすいように耳の近くに寄ってくれる。
どうしようも出来ないこと。
それは、わかってる。
日傘を持つ手が震えて、いつも私にすら賑やかに聞こえる彼がとても静かで。
いつもの無音の世界にそっと浸る。
「今日、会うの最後ってこと?」
「そう、だね……」
「もっと早く言えなかったのか?」
「ごめんね……何回も言わなきゃって、思ったんだけど、寂しくて、辛くて……」
どうしようもないことなのに、泣けてくる。
鼻がつんと痛くなると、そのまま目頭から涙が流れてくる。
「言えないよ…!!
次いつ会えるか…わからないし、つらいよぉっ!!」
西谷くんは、その大きいとは言えない身体で、そっと私を包み込んでくれた。
驚いて日傘が落ちる。
ただでさえ、音のない世界なのに。
更になんの震動さえも感じなくなる。
全身の血肉が、彼を感じ取ろうと必死になっている。

「俺のこと、忘れるわけじゃねえんだろ」
「……忘れるわけ…ない」
「それでいい」
「でも、私……」
「住む所が遠くなっただけだ。
あとは変わらない!今まで通りだ!」
「……うん…」

燦々とした夏の光が一面に広がったようだ。
そのあまりにも綺麗な真っ白な中、私と西谷くんは初めてのキスをした。
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