第13章 言の葉の音に2(西谷夕)
ずるずるとそのまま、夏休み最後、西谷くんが会ってくれた。
夏休みの宿題がまだ終わってないと聞いて笑ってしまった。
図書館で宿題の残りを一緒にやりはじめる。
西谷くんは、数日の間に手話を少し勉強してくれていて、今までよりお話がしやすかったのが、凄く嬉しかった。
隣り合った席に座って、ノートで筆談しながらちょっとずつテキストを埋めていく。
クーラーが少し効きすぎてて、薄いカーディガンを羽織る。
西谷くんは逆にまだ暑かったみたいで、紫外線避けに肩に掛けていた薄手のパーカーを膝かけがわりに貸してくれた。
ふわっと男の子らしいシャープな香りがする。
話さなきゃ…。
ふと、 思った。
なんて切り出そうか、なんて繋げようか。
がっかりするだろうか、それとも、なんとも思わないんだろうか……。
どのリアクションも怖いな、と指先が冷たくなるのを感じる。
『どした?』
男の子らしい字がノートの端に現れる。
『二学期から、支援ある学校に転校』
『やったじゃん!』
喜んでくれるのが少し嬉しいのと、半分は寂しい。
「東京の、学校なの」
何故か、私でもわからないけれど、口に出して言ってしまった。
彼の驚いたような、寂しそうなような顔が、忘れられない。
「外、出よ」
慌てて片付けて、荷物を持って出た。
手首を優しく捕まれると、そのまま走るように外へ向かった。