第9章 ラムネ瓶にのぼる月(月島蛍)
「そんなわけで、かき氷とラムネ、いかがですか?」
「売り上げに貢献してあげる」
「ありがとう…!」
いつもより華やかな格好で、嬉しそうに笑う彼女は、凄く綺麗で、誤魔化しきれなかったそういう感情に、若干モヤモヤしてしまう。
「あのね、丁度休憩だから、一緒に回ろう?」
もまた、いびつな形の瓶を手に持つと、その可憐な出で立ちをいつものどんくさそうな動作にのせた。
用意されたパイプ椅子が軋む。
ちびちびとラムネを飲むは、いつもより口数が少ない。
こういう時は大体いつも倒れる直前だ。
「無理してるでしょ?」
「……っ!」
いつもに増して気が緩んでいたのか、彼女は驚いたような顔をした。
「え!いや、してない!」
また僕に悪態をつかれるのを察したのか、懸命に否定するが、太陽を反射している滴は誤魔化せていない。
「いつもより喋んない、汗ヤバい」
「…っ!!
ご、ごめんね……?くさいよね?」
「………そういうことじゃないし、そんなこともない」
「……そっか」
は改めて瓶を持ち直すと、少し疲れたような顔をした。
いつも無理をしてそれを隠し通すのに、らしくないとは思った。
「無理しすぎ」
「蛍ちゃん……、ごめんね…」
「でも反省してないよね」
彼女は申し訳なさそうに、うん、と頷いた。
「私、いろんな事が楽しくてね、ついついなんでもやりたくなっちゃうの」
「トロいしどんくさいのに、よくやるよね」
「要領悪いのはわかってる……。
蛍ちゃんみたいに、なんでもそつなくこなしたいって、いつも思ってる」
「無駄なことしてないだけ。
は無駄が多過ぎ。
大体看板だけ作るって言ってたのに、なんなの?
服縫って、農作業して?
あと何してたわけ?」
「ええ…?あとのは大したことないよ…。
子供たちとうどん作るの手伝ったり、チラシの絵を描いたり、綿菓子の機械のレンタル探したり、上映会で見たい映画のアンケートの集計したり、ほとんど雑用」
「雑用の量の問題!
そんなん身体何個あっても足らないのにどうやって過ごしてるわけ?」
「ご、ごめんね……」
「もういいそれ、聞き飽きた」
はますます小さく項垂れて、やがて肩に凭れてきた。