第9章 ラムネ瓶にのぼる月(月島蛍)
「なに?」
また悪態をつこうと横を睨むと、既に寝息を立てていた。
初夏のまだ少し冷たい風が吹く。
誤魔化しきれない変な感情が、ラムネ瓶のビー玉みたいにゆらゆらと揺れる。
だって、ずっと、苛ついてるだけと思っていたから。
そういうのは、知らなかったから。
彼女に対しての、心配とか、不安とか、ひっくるめての苛々だったから。
だから支えになりたいと思ったんだろう。
悪態をついても、謝ることしかしないは、僕のことなんて嫌いなんだろうか。
「ねえ、なんでいつも無茶ばっかりするの?
なんでいつも楽しそうなの?
なんで俺のこと嫌いにならないの?
僕は、…たまに、自分がわからない」
「蛍ちゃんは、そのままでいいよ」
「何、寝たふり?悪趣味」
一瞬、ドキッとした。
だってこのまま、気持ちを口にしてしまいそうだったから。
「…ごめんね、ちょっと寝たらスッキリしたから」
「あっそ」
「蛍ちゃんは、私の大事なストッパーで、支えだから。
蛍ちゃんいなかったら、私はもう死んでたかもしれないね?」
「…よくわかってんじゃん」
「いつもありがとう」
浴衣を揺らして立ち上がると、ビー玉のカラカラという音がする。
ガラスに反響して聞こえるのが涼しく思える。
「…次こそは、ちゃんと止めるから」
「うん、期待してる」
あと一歩が進めなくて、これ以上は言えなかった。
それは、の鈍さのせいにしたい。