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【短編集】【HQ】純情セレナーデ

第9章 ラムネ瓶にのぼる月(月島蛍)


「蛍ちゃん、いらっしゃい」
児童館の祭り当日、暇だったし遊びに行った。
昔からいる人も中にはいて、小学生時代にやったキャンプやスポーツの話で盛り上がっていた。
そんな様子を冷ややかな目で見ていたけれど、普段ジャージのが浴衣を着て、こちらに走ってきた。
「はどんくさいから、すぐ転ぶでしょ?
なんでそんな格好で走るわけ?」
「あう……そうだよね、ごめん……」
「別に謝って欲しいわけじゃないんだけど」
またつい苛々してしまう。
「蛍ちゃんの言ってたテープね、凄くよかったよ!
綺麗なポンポンたくさん作ったの」
彼女に案内して貰って、見上げた巨大なラムネの看板は、凄まじい力作だった。
そして、そのテープで泡を模した物は、恐らく、何百とある。
「なにこれ、1人でやったわけ…?」
「うん、近所の子にやってもらおうと思ったんだけど、気付いたら延々1人でやってて…… 」
この掃除機が勝手に用事を押し付けられるには、もう1つ理由がある。
それが『器用さ』だ。
大抵のことは一人でなんでもこなしてしまう上に、クオリティが格段に高いのだ。
評判に評判を重ねて、何故か勝手に雑用が増えていく、器用貧乏というやつだった。
「でも、今回は大変だったよぉ。
体育祭の応援団の衣装もあったし……。
あ、でもでも!お陰でこの浴衣タダで縫えたんだけどね」
「それも作ったの…」
「うん、3着は作ったかな?
あっちの子はミニ丈だよ!」
何度心配しても、この子はすぐにこうやって時間を割いてしまう。
僕が、どれだけ守ろうと思っても……。

(は?守るって、なんだし)

ほんと、苛々する。
これで他の用事もこなしてるし、嫌になる。
つくづく自分のダメさが、浮き彫りになる。
夢中になるなんて、しんどいだけなのに。
正反対の部分にいるこの掃除機が、たまにとても憎たらしくなる。
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