第5章 迷子の子犬さん(澤村大地)
「澤村先輩、ありがとうございました」
深く頭を下げてお礼を言われる。
片付けが終わり、すっかり夜遅かった。
「いいって。二人だけど、打ち上げすっか!」
公園で缶ジュースを買って、乾杯した。
街灯に集まる虫の音だけが公園に響く。
祭の後の寂しさを表すかのような細い月が登った。
「楽しかったなー今年は」
他愛のない会話から始めて、彼女の柔らかな声と表情を横でゆっくりと楽しんだ。
それは、弦楽器による音楽のように緩やかで優しく、春の花畑のように居心地が良い。
可愛らしい仕草や、少しずつジュースを両手で飲む自然な動き、瞬きの一つ一つ、全てが一貫して芸術のように思えた。
「そういや、なんでマネなんかやりたかったんだ?」
ふと疑問に思ったこと。
目当ての人でもいたのか、バレーが好きなのか、いずれも当てはまらない気がしていた。
「澤村先輩がそこにいるって、クラスの子に聞いて」
「…っ」
柄にもなく、動揺した。
自惚れていいのか?
それとも、ただの恩返しか何かか。
「でも、断られたから、そういう不純な動機は、やっぱりダメなんだと思いました」
彼女は伏し目がちにそう呟いた。
「違う」
「ちがう?」
「そういうわけで、断ったんじゃ、ないんだ」
顔が熱くて上手く言える自信がなかったが、ひとまず頭の考えを少しずつ言葉にしようと努力はした。
常に冷静でカッコいい先輩でありたかった。
特に彼女の前では。
「その、が他のヤツと仲良くなっていくのが嫌だなんて、思ったんだ」
「…っ!!」
ナチュラルに、脳内で勝手に呼んでた下の名前で言ってしまう。