第5章 迷子の子犬さん(澤村大地)
そして先刻、マネージャーを申し出てきた、という流れである。
数回しか会っていない上に、すっかり惹かれてしまった俺は、虚しくもその申し出を断った。
一緒に長時間いれるという嬉しさもあったが、それよりも上回る、独占欲。
彼女と会話出来るのも、道案内するのも、世話を焼くのも、俺だけでいい。
そんな黒い考えが頭をぐるぐると回る。
体育祭当日、1人欠席した。
「澤村、お前が彼女と組んでくれ」
「え?」
「この前の委員会で書類見てやってたからわかるだろ?」
委員長からそんなお達しが下った。
彼女はジャージからわなわなと折り畳みまくられた用具の配置図を出してきた。
「つ、次の競技は…これ、なんですけど…」
びっちりと書き込まれた配置図は逆にわかりにくかった。
が、彼女の理解しようという健気な努力は感じられた。
「…お前…これ、こっちから見たら校舎はあっちだぞ」
「うそ!!」
「よかったな、俺とで」
思わず吹き出してしまった。
相変わらず、方向感覚がなくて、子犬みたいで、可愛いと思った。
間違いだらけの配置図を訂正しながら説明し、この前のぎくしゃくしてしまった関係が、少し正せた気がしてほっとする。
真剣に係に向き合って、その年、高校最後の体育祭は終わった。