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【短編集】【HQ】純情セレナーデ

第5章 迷子の子犬さん(澤村大地)


更に次に会ったときは、町外れの公園だった。
「あれ?どうしたんだ?」
「あ、先輩…!」
ピヨピヨと音が鳴りそうな足取りで近づいてくる。
「また迷ったのか?」
「…うっ、はい……」
「こっちだ」
後ろをついて歩いてくるが、見えなくて不安になった。
だから、手を繋いだ。
特に何も考えず。
「…あっ」
恥ずかしそうに手を引かれて、夕方の帰り道を一緒に歩いた。
彼女の顔が赤かったのは、その陽のせいだと思っていた。
「お前、この辺の中学じゃないのか?」
「はい……高校からこっちで…それまでは東京に……」
「じゃあ迷子になるか」
「す、すみません…。
でも、方向感覚は、元々凄く悪くて…」
「校庭の地図すら読めてなかったもんな」
「ううっ…!」
背の低い彼女は、更に身を小さくして俺の顔を見ないようにした。
子犬みたいなその仕草が、悪戯心を弾ませる。
「校内で迷うしな」
「ぐ……」
「それで、方向音痴さんはこんなところで何を?」
「その……お店を、角の商店を出た所で、右から来たか左から来たか、わからなくなって……」
「勘で歩いたんだな?」
「そうです………」
見事に反対だったわけだ。
呆れて、はあ、と深く息が出る。
「ちゃんと、景色見て覚えたはずなんですけど…」
「反対から見たらわからなくなったと」
「………そうです」
「携帯の地図使えばよかったんじゃないか?」
「でも、GPSが反応しない時が多いじゃないですか、この辺」
「自分の勘よりは役立つと思えないか?」
「仰る……通りで………」
何故か方向音痴に限って自信満々に自分の勘を信じるのが、いつも不思議で仕方がない。
元来た道を教えてやると、さっき彼女が出たという店にやっと行き着いた。
「あ!ここでした!
ありがとうございます…!」
またぺこぺこと頭を下げ、その日は別れた。
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