第1章 ジャンヌダルク(及川徹)
彼女は今年の新入生だった。
頭は人一倍良く、マメで、人のことをよく見ていて、マネはまさしく向いていると言っていい。
「及川さん、さっき女子生徒に手で合図している間のボールは取れました。
よそ見しないで下さい」
「…気付いてたか」
「試合でそんなことしたら、ミンチにします」
「相変わらず、可愛くない…」
この数ヶ月、なんだかんだ彼女が気になった。
どんな生活して、何したらこんなカタブツになれるのか。
それに釣り合わないこの容姿。
何もかもが気になった。
「ちゃんは、お弁当派?学食派?」
「質問の意図がわかりかねます」
「うーん、興味」
「現在は母による手製の弁当を食べています」
「へえ、自分で料理するの?」
「質問の意図がわかりかねます」
「……あのさ、スマホに入ってる音声なんとかなの?」
休憩中の彼女は、淡々と、機械的に、今日やったメニューやら水分補給の時間や個人の量を明確に書いていた。
「げ……そこまで管理してんの?」
「当然です。個人の平均水分消費量がわかった方がこちらも動きやすいので。
出来れば食事も管理したいほどです。
成長期に食べるものはすぐに影響に出ます。
筋肉量や柔軟性、そして体力など。
明日からでも管理したいほどですが、ご家庭ではそれはご負担が多いでしょう。
たかが部活にそこまで出来るか、という言い分を持つ者も出てくると思います。
そこは、私が我慢します」
「おお…たくさん喋った…」
「……っ!」
カリカリと流麗な文字が書かれていくボールペンがぴたっと止まる。
相変わらずきつく睨まれながら、子供みたいな三角の唇が言葉を紡ぐ。
「それで?まだ何か?」
「そうだ、料理は?するの?」
「……たまに」
小声で恥ずかしそうに言った。
(あ、なんだ、可愛いじゃん……)
「…………」
「聞いておいて黙るんですか?
それは私に対して失礼ではありませんか?」
「…ご、ごめん」
可愛いなって、思った。
というのは、なんとなく言えなくて、謝って終わった。