第3章 レモンの木(木兎光太郎)
幼い頃は大きく感じたあの木も、今は少し小さく感じる。
その遊歩道を歩いていると、パーン、と気持ちいい程の破裂音が聞こえてきた。
「は?」
音の方を見ると、がいた。
間違いなくやった側はだ。
「ご……ごめんなさい……っ!」
「くそ、こっちが下に出てるからって、いい気になりやがっ…」
男が手を上げるのと同時に、その腕を封じた。
「ストップ」
「…こうちゃん!」
「なんだお前!!?」
「彼女の幼馴染みだ!
悪いがコイツ、ちょっと潔癖でな、もうちょい辛抱出来ねえか!?」
男は腕を振りほどくと、
「ふざけんな!!もういい、別れてやる!!」
と捨て台詞を吐いて消えていった。
は、小さく震え、走り去ったヤツの背中すら見ていない。
「やっぱりね、私、触れないの…。
気持ち悪いって思っちゃって…、ダメ…だよねっ!
だって、だって、たくさん我慢させてしまって…」
「…」
「こうちゃん…どうしよう…っ!
私、こうちゃんに嫌われることの方が、怖いの…っ!
こんなこと言っておきながら、彼のこと、何一つ考えてあげられないの…っ!!
自分がやだっ、自分が…一番、きたない…」
「…っ!」