第3章 レモンの木(木兎光太郎)
いつもみたいに、肩を寄せてやれればいいのに、自分も嫌われるような気がして、動けなかった。
好きだと知った瞬間、自分がに対して思っている感情が全て汚いと思ってしまった。
「…こうちゃん…?」
「俺は今、誰よりもお前のことを汚い目で見ている。
だから、今は慰めてやれない…」
「こうちゃん!」
1人帰ろうとする手を、小さな手に掴まれる。
「この世で、たった1人、…私は…こうちゃんにしか触れないんだよ…?
私は…こうちゃんの手しか取れないんだよ!!
気づいてよっ!!」
「な、なんだよっ!それ!
まるで好きみたいに言うんじゃねーよ!!
勘違いするだろ!!」
「勘違いしてよっ!!!何年も待たせないでよっ!!!」
「あぁぁ!!?」
「あっ……」
一気に場が静かになる。
俺もも顔を見たまま、硬直した。
「それ…マジでいってんの?」
「……そうだよ…」
お互いのトーンが下がりまくった。
「俺…小さい頃から、と結婚すると思ってた……」
「私も……」
「じゃあなんで彼氏……」
「だって!何年も、何も言わないから……私だけそう思ってんのかと……思った……」
「ご、ごめん……」
風が吹いた。
が乱れた髪を抑えながら、レモンの木を見上げる。
「ここで、こうちゃんが助けてくれたの、覚えてる…。
あの時の手が、今も大好き…」
「…ごめん、ずっと、勝手に付き合ってると思ってたから…」
「言わないと、わかんないじゃん…」
頭を下げると、いつものように撫でてくれる。
「いつも、しょげた俺を撫でる、その手が好きだ」