第3章 レモンの木(木兎光太郎)
そんな話をしたのも忘れていた頃、がうちに訪ねてきた。
それは別にいつも通りで、なんら変わらない平凡な休日のひとこまだ。
なのにここまで緊張するのは、俺が片想いだという事実が判明してしまったからだった。
何かしたら簡単に嫌われるとすら思ってしまうこの緊迫した現状、心臓が耐えられる気がしない。
「こうちゃん……」
「なんだ?」
が部屋に散らばっている週刊漫画を読みながら聞いてくる。
先週号の激アツ展開を忘れているというので読み返しさせていたところだった。
「彼氏になったら、やっぱり……彼女とそういうこと、シたいの?」
なんでだろう。
唇がつやっつやに見えるフィルターがかかっているようだ。
吸い込まれそうで、ガン見してしまう。
「……し、たい、かな…」
「……そうだよね……」
いつも見ているのに。
いつも触っているのに。
なんでこんなに、緊張するんだろうか。
「……こうちゃんは私が、そういうこと出来ないかもって、わかってても、やっぱり…」
「それはないぞ」
「…っ!」
つい、語気を強めて言ってしまった。
「それはない。
どんなにキツくても、俺はがちゃんと出来るようになるまで待つ。
人に触っても、平気になれるまで、ずっと、待つ」
「こ、こうちゃん………」
「ああ」