第2章 用心棒ときまぐれ姫(菅原孝支)
さんは数日後、怪我をして登校してきた。
学年中の話題になった。
「どういうことだ?」
「知らない。俺、もう関わってないし」
そうだ、もう関係ないんだ。
俺はもう完全にお役目御免で、解放されて。
始まりもしなかった恋が終わったんだ。
もうそんなことを考えるのも疲れた。
それでも、目を瞑ると、いつも彼女の顔が目に浮かぶ。
最後に会った彼女の部屋は、甘い香りと、煙草の匂いが少しした。
そんなことすら、一瞬で思い出せた。
その甘い香りが今ありありとリアルになって、とうとう自分の妄想力は限界突破したのかと一瞬焦った。
その教室内から泣き声がするまでは。
「……!」
(びっくりした)
放課後の誰もいない学校は、何故こうも不気味なんだろうか。
驚いたが、すぐにわかる。
「さん…?」
「す……すがわら、くん…!」
「どうしたの?」
「入ってきちゃダメ…!」
珍しく焦っている声がする。
薄暗くてよく見えない。
「わ、わかった、そうしてって言うなら…」
慌てて背を向けて廊下に出る。
「菅原くん、私の席、わかる…?」
「うん」
「多分、ジャージを机に掛けてたと思うんだけど…持ってきてくれる…?」
「うん…」
よくわからないが、言われたままを慌ててした。
走って鞄を持ってきて、そっと出入口に置いていく。
「ご、ごめんね……制服のブラウス、切られちゃって…」
「え!?」
「ありがとう…」
衣擦れの音がする。
かつてこんなに緊迫した生着替えがあっただろうか。
廊下にただ呆然と立っていることしか出来なかった。
やっぱり、一緒に帰ってあげてた方がよかった。
どんなにツラくても、彼女がこんな目に遭う方が、何百倍もツラい……。