第2章 用心棒ときまぐれ姫(菅原孝支)
ボロのアパートに着いた。
人の家をこんな風に言うのは悪いとは思うが。
「さん、女の子なんだし、もう少しいいとこ住んだら?
防犯とか……」
「その為の彼氏なんだけどね…。
今の人、社会人だし、帰り遅くて意味ないんだよねぇ」
(意味って……)
「帰ってくるまで少しいて?用心棒さん」
「まずいってそれは…!」
「なんで?」
なんでって…マジで言ってんのかな?
さんの常識はずれな考えに常に振り回されてきた。
今更この程度不思議じゃない。
「お茶くらい、淹れてあげる」
おいで?と言うと、今にも壊れそうな錆びた階段を登っていく。
しょーがないな、と呆れて階段に手を掛けた。
下からの角度でちらちらとスカートの中が見えた。
昔話によくある、誘惑する魔女に異世界に閉じ込められる話をふと思い出した。
そんな気持ちだった。
「ただいま」
「お邪魔します」
「散らかっててごめんね?
適当に座ってて」
散らかっている、というほど物がない。
数冊の雑誌と漫画、ちゃぶ台と、ティッシュの入ったゴミ箱…。
(何考えてんだろ……俺も、さんも)
たった数日で、何人の男に出が入りしたんだろうか。
カップに入ったお茶を置かれた。
「余計なお世話だけどさ…、今の彼氏だけじゃないでしょ、来てるの…」
「……そんなことないよ」
間があった。
そして、目が反らされた。
わかりやすい。
「あるだろ」
さんはどきっとした顔をして、うつむいた。
「一人にしなよ。でないと、また変なのが出るだろ?
もう用心棒がいなくてもいいようにしないと」
自分で言ってて悲しくなる。
何やってんだろ、ほんと。
「もう、菅原くんは、私のお守りはいや?」
「正直…」
今度は俺が嘘を吐いた。
目が合わせられない。
「そっか、そうだよね……
ごめんね…?今までありがとう」
「……っ!」
なんで、そんなこと言っちゃったんだろう。
「明日から、一人で行くし、一人で帰る。
私もいい大人だもんね?」
さんの言葉は、俺にも言われているようで、凄く刺さった。
お茶を飲み干すと、急いで鞄を持って帰った。
あの場にいたら、そのまま、泣いてしまいそうだった。
結局、告白も出来ないまま、その関係も壊し、何もかもが台無しになった。