第10章 形単影隻
ムニルが「白虎なんて大したこと無いでしょ!早く帰ってよ!私たちの尾行に気づかれちゃまずいのよ!」
と一人で男に向かって愚痴を吐く。
「ムニルは、情報収集とかには向いてそうだけど、尾行はあんまり向いてなさそうだね。今日、けっこう途中でやきもきしてたし」
「そうよ!焦れったいのは嫌いなの。」
ムニルは深くため息を吐く。彼は見た目が麗しく、動作も美しい。初めはなんて上品な人だろうと思っていたが、だんだん優美なだけではないとハヨンもわかりかけてきた。
「確かにこのままでは困るな。夜には山の麓で皆と落ち合う約束だからな。」
リョンヘも悩ましそうに頭を抱える。太陽はだいぶん傾いでいて、小道を赤く照らしていた。
「今日はとりあえずあの男の家さえわかればだいぶんましですが…」
ハヨンは木陰から男の姿を盗み見る。男は前よりは歩む速度が速くなっている。彼も日が落ち始めたことに焦りを感じているのかもしれない。
その後、三人はやきもきしながら男の後をしばらく追う。日が落ちる前に彼が家屋に入っていったので、三人はほっとした。
「とりあえず本当にあそこが彼の家かをこっそり確認したら帰るわよ。」
「だったら私が調べてくる。」
ハヨンは足音を忍ばせて家の窓の下にしゃがみこんだ。
そっと家のなかを覗くと、中年の女性と男の子が一人、そして生まれて間もないであろう子供が男の腕にしっかりと抱かれていた。
(うん、ここが彼の家なんだろうな)
ハヨンは確信を持って、ハヨンの帰りを待つ二人のもとへと戻る。
「どうだった?」
リョンヘに問われてハヨンは指で丸を作る。リョンヘとムニルがほっと息をついたのがわかった。
「とりあえず今日はみんなのもとへ戻ろう」
三人は来た道を引き返すのだった。