第10章 形単影隻
先程話していた頭の上が禿げた男性と、白髪混じりの男性が席をたつ。その時、右隣に座っていたムニルがハヨンの袖を引っ張る。
慌てて彼を見ると、目線を彼らに向けていた。どうやら彼らを追えということらしい。この店は料理を持ってきた時点でお代を請求するので、煩わしいことがなく、すぐに追うことができた。
彼らの歩く場所から八歩(一歩で1.35m程度)程度の距離を保って追っていく。
(この人の家の周辺に白虎が現れたんだよね…。できれば寄り道せずに帰ってくれたら、迷ったり怪しまれる確率も減るし、早く白虎を探せるんだけどなぁ…)
しかし、そうはうまくはいかなかった。彼は友人の家を訪ねたり、畑の様子を見に行ったりと絶え間なく動いたのだ。
「やっと家に帰るみたいね。」
男に隠れながら追っていたので、神経もすり減り、ムニルも些かげんなりした様子だ。
彼が家に帰る頃には、もう辺りは少し薄暗かった。男は時おり不安そうに後ろを振り返りながら帰る
「急に後ろを振り返るようになったな。まさか私たちの尾行に気づいたのではなかろうな?」
物陰に隠れながら、リョンヘが眉間に皺を寄せる。
「いや、あれはむしろ…白虎が家周辺にいるから、怖いのでは…」
ハヨンはそう返した。後ろだけでなく、様々な方向に目をやって、時おり立ち止まるからだ。尾行を気にしているのならば、前方を見て身構えたりはしないだろう。
(こんなにも恐れているってことは、実際に白虎が人を襲ったことがあったのだろうか…)
四獣は王族の友であり、誇り高い伝説の獣と言われているが、だからと言ってみなが善良な人とは限らないのだ。
ハヨンは今さらこの事実に気づいたのだった。